ソフトウェア技術者向け情報

3. コンピュータの文章表現
・・・コンピュータへ正確な指示を伝えるための文章表現・・・

 本稿は、コンピュータを使用する場合に必要な「文章の記述方法」について解説します。 特に、システムの運用保守にかかわる文章、および、システムの要件定義や設計にかかわる文章は、記述に特別な配慮が要求されます。 わたくしたちが普段使用している文章がコンピュータに「正確」に理解できるよう研究は進められております。

▼ 本稿の内容情報
3-1.文章表現のルール
 ・・・21世紀現在のコンピュータは、まだ、人間の言語を理解してはいません・・・
3-2.文章を表現する「集合」
 ・・・コンピュータの仕組みの基礎となる集合(ブール代数)の概要・・
3-3.主語と述語
 ・・・主語と述語の関係は、包含関係と外延性の原理に従います・・・

3-1.文章表現のルール

 今日のコンピュータは、理論的に、二つの発明=発見によって成立しています。(再掲)
したがって、技術者諸氏は2進数とブール代数に対応可能な文章の記述ルールを理解し実践することが必要と考えられます。
(1) 文章を構成するための情報
 文章を構成する要素(言葉)は、その文章を使用するための「目的」が明確である必要があります。多くの設計書書式では、冒頭に「目的記述」を定義することを要求しています。(特に、オブジェクト指向設計書では、内容を把握するための重要事項として、必須要件と定義しています。) 目的の明確でない文章は、読み手ごとに異なる内容を示唆してしまう可能性を排除できないことに問題があるのです。
また、記述する内容は、「過不足なく」を玉条とします。不必要な記述は、無駄であるばかりでなく、読み手に混乱や誤解を招く恐れがあります。不十分な記述(当たり前だから記述しない)は、漏れや過誤などの不正確さの原因となります。
ゆえに、正しい文章は、目的に向けて過不足のない記述と定義することができます。
(2) 文章の形式
コンピュータ関連業務用文章(以下、単に「文章」と表現します。)には、コンピュータもしくはその利用者に性格な情報を伝達することを目的として、3つの基本ルールが存在します。
(著者の独善で3つにさせていただきました。本稿のみの話です、あしからず。)
「3つの基本ルール」
・文章は、平叙文の形式(主語+述語)で記述してあり、主語と述語は集合で表現可能である。
・文章は、命題の形式で記述でき、したがって、対偶(注2)が成立する。
・文章は、1H5Wの要素(注1)を、過不足なく含んでいる。
これらで構成された文章は、コンピュータおよび利用者、開発者に、命令(プログラム:処理をする手順)と情報(データ:処理をする対象)を正確に処理する方法を示唆します。

注1:
how、who、when、where、what、whyのことです。(念のため)

3-2.文章を表現する「集合」

・・・コンピュータの仕組みの基礎となる集合(ブール代数)の基礎・・・

 文章を構成する基本的な集合の概念について
コンピュータ上では、データやソフトウェアを、数字、文字、記号などを2進数で表した「情報の集まり」としてとりあつかっています。 「情報:物や人、もしくは、処理の集まり」を「集合(set)」とよびます。 また、「一つ一つの情報=メンバ」を「要素(element):数学では元(ゲン)、文章記述では主語や述語など」といいます。
・集合を表すには、しばしばラテン文字の大文字 A, B,などを使います。
・集合の要素=元は、ラテン小文字 a, b,を使用します。(一般に集合を表すのに使った文字に対応)
(データの集合、人の集合や処理の集合は「○○のセット」、その要素を「○○の(構成)メンバー」と表現することがあります。)
・記述方法
対象 a が集合 A を構成するものの一つであるとき、「a は集合 A に属す」「a は集合 A の要素(あるいは元)である」「集合 A は a を要素として持つ」などといい、a ∈ A あるいは A ∋ a と表します。
また、要素の存在しない集合を空集合、全てを表現する集合を全体集合と呼びます。

左図(ベン図と呼びます)を表示、または、
A = { 1,2,3 } と要素を列挙
もしくは、
A = { a | a は、3以下の自然数 } と要素を決定する条件で表現します。  

3-3.主語と述語

・・・文章を構成する、二つの集合(主語と述語の関係)・・・

ブール代数では、二つ以上の集合の計算を取扱います。 文章を記述するうえで、必要となる集合理論はそのごく一部ですが、日常使用している文章とは異なるルールに注意が必要です。

(1).包含関係: 文章は、集合の包含関係の形式で表現します。
二つの集合 A, B について、平叙文として、集合Aが主語、集合Bが述語を表します。
A に属する元がすべて B にも属すとき( x ∈ A ⇒ x ∈ B が a の取り方に依らずに成り立つとき)、 「A は B の部分集合である」「A は B に集合として含まれる」「B は A を包含する」といい、 A ⊂ B 、A ⊆ B 、 B ⊃ A 、B ⊇ A と記します。
このとき、「AならばBである」関係が成立し、論理学や統計学では、命題「A→B」と表します。
一般に、コンピュータ関連の作業では、文章を記述する場合、「AはBである」、もしくは、「AはBを行う」という形式の文章でで記述します。
例:
  「私は、人間である」  A={a|私}、B={b|人間}・・・正しい例
  「お客様は、神様です」 A={a|お客様}、B={b|神様}・・?な例
上例の場合は、「対偶」(注8)が成立しています。下例は???です。
(下例の文章の待遇:「神様でないならば、お客様ではない」)

(2).外延性の原理
主語と述語が「等しい」文章は等しいと表現することです。
A={1, 3, 5, 7, 9} と B={ x | x は 10 未満の正の奇数 } は異なる表し方をされているが、どちらも自然数 1, 3, 5, 7, 9 を要素とする集合を表現したものです。 このように全く同じ要素からなる集合AとBは等しいと考えることを外延性の原理(principle of extensionality)と呼びます。
外延性の原理:任意の対象 x に対して x ∈ A ⇔ x ∈ B が成り立つならば、A = Bである 。
(「⇔」は両側が必ず同時に成り立つことを示す論理記号です。 したがって、A⇔Bは、「 A→B、かつ、B→Aが同時に成立する」関係、A=Bともあらわします。)
日常使用する文章では「「1,3,5,7,9」は「10以下の正の奇数」」であると表現できます。 この二つの文章は「内容が等しい」のですが、コンピュータは、「等しい」と明示されていない場合、A→Bは「a:10以下の正の奇数」は「b:1,3,5,7,9」以外にも存在し得ると解釈します。

帰結:
主語Aと述語Bが等しい関係をコンピュータ関連の文章で記述する場合、必ず、「AとBは等しい」と記述する(もしくは付記する)ことが必要です。

例:
「オブジェクト指向開発では、不要な文書は作成しない」という格言があります。 このまま命題ととらえると、対偶は「作成する文書は必要な文書である」ことになり、必要な文書でも作成しなくてよいことになってしまいます。 正しい文意は、「作成する文書→必要な文書、必要な文書→作成する文書」であるので、主語と述語が「等しい」ことの付記が必要でした。
もしくは、「オブジェクト指向開発では、不要な文書のみは作成しない」でも意図した意味の命題として成立しています。

注2:
「待遇」とは、A→Bが成立するとき、「Bではない」→「Aではない」という関係が必ず成立することを示しています。 現在のコンピュータ技術水準では、文学表現のような対偶が成立しない文章(命題とならない文章)は、理解・使用できません。 将来、対偶の成立しない文章でもコンピュータが理解できるようになる日が来ると楽になりますね。

付記:
命題の形式であっても、コンピュータには通用しない場合があります。 命題として「0のあと小数点以下に9が無限個続く数は完璧に1に等しくなります」は正しいのですが、 コンピュータには桁数の制限が存在するため、 「0のあと小数点以下に9が無限個続く数は取り扱うことができず、整数としては0に等しくなる」ことに留意が必要です。
したがって、小数点以下の数値を取り扱う場合、切り捨て・切り上げ・四捨五入(たとえば、利息計算など)では、文章記述にも注意が必要です。 例えば、会計原則では、経過利息を算出する場合は、経過利息の計算式を使用せず、「期間利息から未経過利息を引いた残」と定義しています。 (未経過利息優先の原則)

コンピュータの文章表現-以上


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