カール・ニールセン (1865-1931) 交響曲第4番 〈不滅〉Op.29

 グローバル化の煽りだろうか、クラシックの世界でも英式や独式の発音をオリジナルの響きに近づけたり、邦訳をより正確なものに置き換えたりすることが流行っているようだ。ただ、プログラム前半に登場したシベリウスを「ジャン」から「ヤン」に改めるくらいなら違和感もないが、《ガイーヌ》が《ガヤネー》になり、《だったん人の踊り》が《ポロヴェッツ人の踊り》になると、だんだん何のことやら分からなくなる。同じ理屈で行くならば「カール・ニールセン」も「カルル・ネルセン」となるべきなのだろうが、別人と誤解されるためか、あまり浸透していないようだ。ただ、彼の第4交響曲の副題については、〈不滅〉でなく〈消しがたきもの〉〈滅ぼし得ざるもの〉などと訳す例が増えている。確かに作曲者自身が付けた "Det Uudslukkelige" のニュアンスは、そちらの方がより“近い”のかもしれないが‥‥、はてさて、我々はどこまでこだわるべきなのだろう。

 デンマークの作曲家ニールセンはシベリウスと同じ年の生まれ。「北欧の作曲家」としてセットで扱われることも多い。代表曲となる第4交響曲〈不滅〉は通常の多楽章制をとらず単一楽章で構成されているが、比較的明瞭な四つの部分に割けて捉えることが可能だ。編成面では2組のティンパニの使用が目を引く。

 第1部:Allegroでは、劇的なフォルティシモで開始される推進力に富んだ第1主題と、クラリネットで提示される緩やかな下降音型の第2主題が軸となる。だがどちらも明確な主題と言うよりは断片的な動機としての性格が強い。両者を素材とした幻想的な展開が続くが、第2主題による頂点が形成されるとヴァイオリンとティンパニのブリッジを経て第2部:Poco allegrettoに移る。木管楽器が歌う素朴な舞曲だが、拍子が安定しないこともあり掴み所がない。中間部では弦楽器のピチカートが彩りを添える。第3部:Poco adagio quasi andanteでは悲痛なヴァイオリンの呻きがティンパニの間隙を縫うように続く。ソロ・ヴァイオリンに先導され幾分暖かみのある旋律に移るが、突然モールス信号を思わせる冷徹な連打音が木管に現れ、反復の中で感情を昂ぶらせていく。大きく盛り上がった後、オーボエの信号が木霊するなか第4部:Con anima - Allegroに移行する。 急速に動き回る弦楽器の導入から雄大な新主題が導かれるが、すぐにフガートとなり、次いで2組のティンパニが縦横に炸裂する凶暴な音楽となる。いったん平穏を取り戻すものの、再度ティンパニの長大な咆哮。だがその背後で断片的に鳴り響いていた第1部の第2主題が、やがて全体を覆い尽くす圧倒的なコーラルへと成長、最後は「滅ぼしえないもの」=生命=音楽の勝利を壮麗に歌い上げる感動的なフィナーレとなる。

出典

東広島交響楽団第14回演奏会、広島大学サタケメモリアルホール(2012.1.8)、パンフレット。

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