ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー (1840-1893) 交響曲第5番 ホ短調 作品64

★子ども向け★

 18世紀後半から19世紀にかけて、ヨーロッパ音楽の中心地はドイツやオーストリアでした。たとえば皆さんがよく知っているハイドンもモーツァルトもベートーヴェンも、みんなドイツ・オーストリアの作曲家です。ですが19世紀も中盤(ちゅうばん)にさしかかると、西ヨーロッパから遠く離れた東欧(とうおう)や北欧(ほくおう)の国々から、それぞれの地域の特色を大切にする作曲家が登場し、国際的にも評価されるようになります。ロシア出身のチャイコフスキーもまた、そんな作曲家の一人でした。彼は祖国ロシアの音楽的個性とヨーロッパの伝統的な音楽様式を見事に融合(ゆうごう)させた作品を数多く生み出し、ロシアのみならずヨーロッパ中で愛される有名作曲家となりました。

 チャイコフスキーの魅力(みりょく)は、なんといってもその美しい旋律の数々です。特にバレエ音楽がよく知られていますが、今回演奏する交響曲第5番にも思わずうっとりしてしまうメロディーが次々に登場するので楽しみにしていて下さい。また、この交響曲第5番は4つの楽章から構成されているのですが、全ての楽章に共通する「循環(じゅんかん)主題」が繰(く)り返し登場するのも大きな特徴です。音楽が進んでいくなかで、この「循環主題」がどのように変化していくのか、じっくり耳を傾(かたむ)けてみるのも面白いですね。

 第1楽章では序奏部にいきなり「循環主題」が登場します。クラリネットが吹くこの憂鬱(ゆううつ)でもの悲しい旋律を、ぜひ覚えておきましょう。主部はややテンポを上げますが、不安感が強く、まるでずっと心配事を抱えているかのようです。

 第2楽章はまさに旋律の宝石箱! ロマンチックなメロディーが、いろいろな楽器でこれでもかと登場します。でも、そんな夢見心地を「循環主題」が暴力的に切り裂きます。

 第3楽章はとてもチャーミングなワルツ。中間部では小さな妖精(ようせい)が飛び交うような細やかな音型が続きます。ですがこの楽章でも、一番最後に「循環主題」の暗い陰が・・・

 第4楽章では雰囲気(ふんいき)がガラリと変わって、悩(なや)みを振り切ったかのように堂々とした「循環主題」が登場します。それに続くのは、賑(にぎ)やかなお祭りを思わせる音楽。最後にもう一度「循環主題」が戻ってきて、力強く全曲を締めくくります。

出典

iichikoグランシアタ・ジュニア・オーケストラ第1回定期演奏会、iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ(2010.4.3)、パンフレット。

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