ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1756-1791) 交響曲第41番 ハ長調〈ジュピター〉K.551

 普段クラシックを聴かない友人が「ジュピターは好きだ」というのでモーツァルトのCDを紹介したところ、後日「全然違う曲じゃないか」とご立腹。よくよく話してみると、友人が聴きたかったのはホルストの組曲『惑星』だったことが判明。なるほど、J-POPの影響で最近はジュピターと言えばそちらなのかと膝を打つ。ジュピターとはローマ神話における最高神であり、モーツァルトの場合は「それくらい偉大」だという理由で名付けられたのだろう。だが一方で、神話に登場する神々の名は惑星にも使われており、その場合ジュピターは「木星」を指す(ちなみに金星はヴィーナス、火星はマーズ)。ホルストの組曲にジュピターが登場するのはこのためだ。曲数が多いと番号では覚えにくい、というのは先にも書いたとおりなのだが、愛称には愛称なりのややこしさがあるのかもしれない。

 モーツァルト最後の交響曲である〈ジュピター〉は1788年、死の3年前に作曲された。後の時代の劇的な表現に比べれば確かにシンプルなサウンドだが、かえって彼の最晩年の手腕を際立たせる結果になっているとも言えよう。

 第1楽章はAllegro vivace、4/4拍子でソナタ形式。主音である「ド」が連続的に鳴り響いた後、柔らかな動機がこれに応答し、全管弦楽による合奏となる。第2主題は細波のような伴奏に乗ってヴァイオリンで優雅に歌われ、ユーモラスな小結尾へと続く。展開部の後半、弱音で第1主題が回帰するかに見えるが、これはヘ長調による一種のフェイントで、実際の再現部は少し後からフォルテで訪れる。

 第2楽章はAdagio cantabile、やはりソナタ形式で書かれており、弱音器付きのヴァイオリンによる詩的な第1主題で始まる。経過句は不安感の強い色彩だが第2主題に入ると再び優雅な曲想となり、レースのフリルを思わせる細やかな音符を織り重ねていく。展開部は経過句の動機で始まり、デフォルメを伴う再現部へと続く。

 第3楽章はAllegrettoのメヌエット、3/4拍子。なだらかな下降音階が印象的な華々しい舞曲。木管楽器の優しい呼びかけで始まる中間部では、続く第4楽章冒頭の主題が予告される。

 第4楽章はMolto allegro、2/2拍子。有名な「C-D-F-E」の主題がまず弱音で、次いで堂々たるフォルテで登場するが、一通りの提示が終わるとすぐに対位法的処理へと回される。第2主題の扱いもほぼ同様。ポリフォニックな傾向はそれ以降も楽章を通じて維持されるが、なかでも白眉はコーダであり、両主題を用いた壮麗なフガートとなる。

出典

Meister Art Romantica Orchestra、iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ(2010.10.29)、パンフレット。

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